特別展「マンダラ ─ チベット・ネパールの仏たち」
カトマンドゥ盆地におけるマンダラとしての壺
吉崎 一美
壺の入れ子構造
以上に挙げた諸例を、それらが持つ壺のスケールによって順に大から小へと並べれば次のようになります。
カトマンドゥ盆地 > 旧市街を囲んでいた城壁 > 仏教寺院 > 仏塔(スヴァヤ ンブーの大仏塔 > 約三千の小仏塔)> ガジュール、ならびに儀礼の壺などこのうち約三千の小仏塔は「小さな仏教寺院」とも呼ばれますので、大小の相互関係はスヴァヤンブーの大仏塔と仏教寺院との間で二重に設定されていることになります。またカトマンドゥ盆地よりも大きなスケールの壺として、仏教の世界観でいう<器世界>の概念があります。それは全世界を一個の容器とみなしています。
壺はこれらの大小を比較する基準です。壺の大きさを基準にして、それらは相互に入れ子の関係にあります。儀礼の壺はカトマンドゥ盆地が作り出した天然の壺の中にすっぽりと収められ、三千あまりの小仏塔はスヴァヤンブーの大仏塔が作る壺に入ってしまいました。そしてこれら無数の壺のすべては、最終的に理論上で唯一個の壺に集約されます。先の「全世界」も、実は先の壺の儀礼では、壺にのせられた土製の小皿で象徴されています。小皿に盛られた生米は大地を、ビンロウジの実は空間を、硬貨は人間の営みを表すとされます。最大の壺がここでは極小のレベルに圧縮され、仏へのお供えとなるのです。