国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

特別展「マンダラ ─ チベット・ネパールの仏たち」

カトマンドゥ盆地におけるマンダラとしての壺
吉崎 一美吉崎 一美
仏の眼が開く
壺に描かれた赤観音の眼(壺を本堂に運び入れる)
8.壺に描かれた赤観音の眼
 (壺を本堂に運び入れる)

仏が子宮としての壺に「受胎」(同時に「誕生」にもなります)すると、その壺には眼が描かれます。赤観音の塗り直しの最中、観音の魂は壺に安置され、その壺が礼拝の対象となりました。その壺には眼が描かれています(写真8)。スヴァヤンブーの大仏塔や三千余りの小仏塔が作り出している壺にも、同じ位置に眼があります。
眼の表現は一般民家の入り口にも見られます(写真9)。仏教徒の家の眼は、やや細められて瞑想的です。ヒンドゥー教徒の家の眼は大きく見開かれて活力に満ちています。伝統的な民家は中庭を囲んで作られており、この眼によって、その家は、仏教寺院と同様に、中庭を中心として、心理的にも空間的にも閉鎖的な神聖空間(すなわち壺)であるとされるのです。
民家の入り口に描かれた眼
9.民家の入り口に描かれた眼
また仏教徒が住む一般民家の入り口には、先の眼とともに五仏が描かれています(ヒンドゥー教徒の家ではヒンドゥー教の五神が描かれます)。これは、スヴァヤンブーの輝く光がやがて五色の光線を発し、その光線の中に大日如来などの五仏が出現したという伝説に由来します。これによって、スヴァヤンブーの大仏塔、ならびにこの大仏塔をモデルとして盆地の各地に建設された約三千の小仏塔には、その周囲に五仏が表現されます。なおそれらとともに民家の入り口に描かれるオウム鳥は、インド文化圏では人語を理解して機知に富むといわれ、入り口にあって来客を告げるとされます。