国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

特別展「マンダラ ─ チベット・ネパールの仏たち」

カトマンドゥ盆地におけるマンダラとしての壺
吉崎 一美吉崎 一美
反転する壺
シヴァ・リンガ
7.シヴァ・リンガ
壺の入れ子関係には一つの顕著な特徴がありました。儀礼の壺や仏塔の壺は外から眺められるのに対して、仏教寺院より上のスケールでは、壺は内から眺められています。それで寺院から仏塔へと壺がスケール・ダウンすると、壺中天としての現実世界は反転して壺の中に収まってしまいます。逆に仏塔から寺院へとスケール・アップすれば、壺中天は仏教寺院の境内やカトマンドゥ盆地といった現実世界になります。
カトマンドゥ盆地に見られるヒンドゥー教のシヴァ・リンガ(写真7)は、この壺の世界観にもう一つの解釈を与えます。シヴァ・リンガはシヴァ神のリンガ(男根)とその配偶者の女神のヨーニ(女陰)を結合させて(つまりは男女の交合をありのままに表現して)います。それはこの盆地が、シヴァ神の配偶者である女神の子宮内であることを意味しています。カトマンドゥ市東の郊外にはシヴァ教(ヒンドゥー教シヴァ派)徒最大の聖地パシュパティがあります。その本尊のシヴァ・リンガは、一年のある一日に仏の冠をかぶるといいます。これによってカトマンドゥ盆地は、まったく直裁的な方法で、仏の配偶者の子宮の中ということになってしまいます。それでこの子宮世界が一転して現実世界と認識されると、「受胎」はそのままで「誕生」となるのです。