樫永真佐夫『ハノイの異邦人』 ─ 7.村の国際結婚
7.村の国際結婚
前号でふれた友人の結婚式についてです。
ハノイで喫茶店を経営して4,5年になる友人の日本人が、ずっと一緒にお店を支えてきたベトナム人の女性とついに結婚しました。奥さんの実家がある村で結婚式をするというので、他の日本人3人を誘い合わせ、車を借りてお祝いに行って来ました。ハノイから3時間以上も走ってようやく着きました。どんな道を行ったかは、前号のとおりです。
もうとっくに婚姻の祝宴は終わっていたのですが、村の人や親戚の人が新郎新婦と僕たちのためにもう一度集まってくれました。
ハノイでキン族が結婚式を挙げる場合は、ふつうお披露目だけで、とくにスピーチなどありません。招待された人は時間に行って、新郎新婦に祝福のことばをかけてご祝儀を渡せば、あとはごちそうを食べまくって、おなかいっぱいになったら帰るだけです。けれど村での結婚式は少し違います。ちゃんと挨拶があるのです。しかも突然、原稿を手渡され、ぼくが挨拶文を読み上げることになりました。日本でもそんな挨拶したことないのに、ましてキン語でなんて、、、緊張しました。気の利いたこといえなくて、ごめんなさい。
ベトナムの村には、いかにも老人という老人、いかにも子どもという子どもが今でもいます。また田舎にはなんだか都市とずいぶん違った時間が流れています。
お酒を飲み、肉を食べ、餅米を食べました。宴席上には、ビンロウジ、石灰、キンマがのったお皿もありました。これをブレンドしてしがむと、口の中が真っ赤になります。年輩の女性たちにとっては今でも日常的な嗜好品ですが、儀礼のお供えの中にもよくあります。
たくさん食べておなかいっぱいになったら、天気も悪いことだし、ハノイに戻ることにしました。雨の中、水牛を連れて帰る少年たちが田圃の畦にいたので、写真を撮りました。何のことはない風景ってあんまり写真に撮らないものです。日本にいるときに、ベトナムで当たり前の風景の写真を探して出てこないことがよくあるのです。その意味で貴重な村の一コマです。
[2002年6月]