国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

樫永真佐夫『ハノイの異邦人』 ─ 23.里の水のなか

樫永真佐夫『ハノイの異邦人』

23.里の水のなか
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 水稲耕作を営む黒タイの村や田んぼの周りには、たくさん水路があります。水路は農業の役に立つだけではありません。
 夕方、腰にびくをさげ、三角網をもって水路の中にいる人を見かけることがあります。だいたい女の子か女性です。かれらは、水生昆虫や魚介類をとっているのです。それが夕飯のたしになります。それらを砕き、刻んだ香菜と混ぜて葉っぱにくるんで囲炉裏であぶったりして食べます。
 水路から戻ってきたところを見せてもらいました。テナガエビやフナに加え、タナゴに似たコイ科の魚、ヨシノボリに似たハゼ科の魚なども混じっています。
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 水生昆虫は写真にうつっていませんが、好まれるのはタガメ、コバンムシ、各種のヤゴ、マツモムシなどがよくいます。あと、カエルや沢ガニなどです。
 村の水路でとったのではありませんが、雨のあとに出てくるという希少なタニシを子どもが売っていることがありました。これは在来種でしょう。

 外来のタニシが田んぼや水路に入ると、こういう在来種は駆逐されます。魚も、テラピアがすむ用水路には、メダカは非常に少ないし、コイ科の小魚も駆逐されてしまいます。近年では外来種に加え、農薬も人と身近なところでの生態系破壊の張本人です。タガメはもはやベトナム西北部のほとんどの水路や池で見かけなくなりました。農薬が入るとすぐにいなくなってしまいます。農薬の投入は水稲の生産量を増やすだけだなく、水路の生態系を変化させ、水路と人の関わり方もかえてしまうのです。
 
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[2002年11月]
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