樫永真佐夫『ハノイの異邦人』 ─ 31.おらの里にも春が来た!
31.おらの里にも春が来た!
ベトナムの多くの民族が、陰暦1月1日を正月として祝います。北部山地でもとくに高地に住むモンの多くも、その日に正月を祝います。「モンの多く」というのは、モンの中でもあるグループは、それより1ヶ月くらい早く正月を迎えるからです。
ぼくがハノイを発ったのは陰暦1月4日の早朝でした。黒タイの正月と、義理の姪の結婚式に招かれていたからです。吐く息でヘルメットの前面が曇るような寒い中を山の方に向かいました。
国道6号線沿いだと、マイチャウ-モクチャウ間の高原、ファディン峠の上にモンの村があります。標高が高いので、麓よりさらに寒いし、霧で小雨がちなのですが、花が盛りで若葉が茂った桃李の木々が家と家の間を埋めていました。村の広場でも、きれいに着飾った女の子たちが、ボール投げをしたり、踊ってふざけたりしていて、春だな、とつくづく感じさせられました。
青年たちはバレーボールをしたり、子どもは独楽をぶつけ合って競ったりしています。独楽に巻くひもは棒の先につけ、棒を使って独楽を投げるのです。独楽の遊び方は、キンや黒タイとちょっと違います。キンや黒タイは棒は使いませんし、独楽の上側でひもを巻いて投げるのですが、モンは、日本同様、独楽の下側でひもを巻いて投げるのです。
ムオン・ムオイの黒タイの村を通りかかったときには、ほんらい足蹴り用の羽根を、卓球のラケットでうちあっている女の子たちがいて、さながら羽子板のようでした。
昔は、日本もまだ寒い中、正月は着飾って外にでて、いろいろな遊びをしました。まだ寒くとも、それで気持ちも春らしく華やいだものでしょう。
[2003年2月]