樫永真佐夫『ハノイの異邦人』 ─ 11.手工業:生産と消費の役割分担
11.手工業:生産と消費の役割分担
ハノイの紅河の対岸にバッチャンという村があり、陶磁器生産で外国人にはちょっと有名です。ぼくは一度行ってみたときに、紅河の増水期で村が水没していて、舟でしか通りを行き来できなかったので、村にはいるのをやめ、それきりになっていました。それで栗田先生がいらした機会に行って来ました。
近年の観光化でバブルなようで、大きな新築の家や陶磁器屋が立ち並んでいます。お店によっては生産の様子を見せてもらえます。工房に入ってみると、生産しているのはたいがい女性で、みな近隣の農村からの出稼ぎなのです。10代前半の女の子もたくさんいます。歴史のある地場産業といっても、設備投資や販売はバッチャン村の人ですが、直接生産に関わっているのは近郊の農村からの人なのです。そして主に顧客は外国人です。やや稚拙なのが素朴な味わいとして外国人に受けています。
日本人の感覚からすればバッチャン陶器は安価ですが、ベトナムには客人に趣きのある器でもてなすという「粋」もないので、ベトナム人は中国製のプラスチックの食器を好みます。バッチャン陶器は重いし、機能性にもやや欠けるのですが、ベトナム人自身が使わないために改善する意志がうすいのかもしれません。
[2002年8月]