国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

樫永真佐夫『ハノイの異邦人』 ─ 4.近くて遠い海

樫永真佐夫『ハノイの異邦人』

4.近くて遠い海
 妻が来たので、ハロンを日帰り旅行しました。最近は道がよくなり、ハロン湾まで4時間くらいで着くようになりましたが、写真のようなバスで、メチャクチャにまわりを蹴散らしながら暴走していきます。
 
写真 写真
 
 ハロンに着いたら遊覧船に乗りました。妻がいたせいで、外国人だとばれてしまい、高いチケット代を払わされました。他の乗船客は、ハノイから来た若者たちと、いかにも田舎者っぽい親子3人。ハノイから来た若者たちは、パンやら果物やら、大量の食べ物を持ち込み、ずっとしゃべりながら、恐るべき食欲で食べまくっています。途中、洞窟に行って戻ってくると、彼らは、水着をもってきたから泳ぎたいと言い始め、船頭にケータイで会社に電話をかけさせ、あとのクルージングをやめて海水浴にかえてしまいました。僕ら2人と、田舎親子3人も巻き添えです。都会者の傍若無人ぶり、恐るべし!田舎者は、都会者の無謀さに異議を唱えられないのが、この国の常です。でも僕から見ると、田舎の人たちの方が、よっぽど文明的に見えますね。
 どうせ人の話を聞く人たちではないので、不承不承連行されました。波打ち際では、混雑の中で人がそれぞれ浮き輪なんかを持った人たちがバシャバシャはしゃいでいます。ベトナム人にとってこれが海水浴です。砂浜から離れてぼうっとしていると、物売りボートが寄ってきます。池か水路を行くような船で、カップラーメンやら雑貨やらを売っているのです。大波が来たら簡単にひっくり返るでしょう。ハロン湾に行っても、海の幸はまったく食べられません。むしろ、ベトナム人と海との縁遠さがかいま見えます。
 
[2002年5月]
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